『宙(そら)わたる教室』

(い)(よ)(はら)(しん)という作家による作品で、とても惹きつけられました。

東京・新宿にある定時制高校が舞台になっています。そこには様々な背景を持った生徒が集まってきます。年齢もバラバラです。

昼間は清掃業者で働く柳田岳人(21)は、不良グループと付き合いつつ、自動車免許を取るために通っている。文章問題が解けないことから「ディスレクシア」と呼ばれる学習障がいを抱えている。母親との関係に苦しみ起立性調節障害を抱え保健室登校を続けている名取佳純(16)。フィリピン人の母と日本人の父を持つ越川アンジェラ(43)。中学を出てすぐ集団就職したために、高校教育を受けに来ている元町工場経営者の長嶺省造(76)

この4人が新しく赴任してきた理科教師・藤竹叶(34)の呼びかけで「科学部」を作ります。最後には衝突実験装置を自作して、学会で発表しJAXAにも認められるのですが、そこに至るまでが一筋縄ではいきません。それぞれが抱えている課題が噴出して、一時は科学部解体の危機にまで至ります。

藤竹が何とか4人を集め、自分のこれまでの歩みを語ります。研究者として順調に歩んでいた中で出会った、日本の大学に根強くある「学歴重視による弊害」。科学(学問)はもっと多くの人たちに開かれていて、可能性に満ちていることを定時制高校で証明したかったのだと。そこから科学部が再び動き始めます。作品の中で最も変わった柳田の最後の言葉が胸に響きました。

藤竹の言ったことは正しかった。あそこには、何だってある。その気になりさえすれば、何だってできる。俺の居場所は、しんとした校舎に窓明かりが灯る、あの教室だ。(pp.281-282)

「その気になれば何だって出来る」ということを、子どもたちと分かち合い続けていきたいと願っています。(有明海のほとり便り no.438)