『それで君の声はどこにあるんだ?――黒人神学から学んだこと』

榎本空さんが昨年5月に出版された表題の本を読み衝撃を受けました。

マンハッタンにあるユニオン神学校は、ボンヘッファー、ニーバー、ティリッヒ、ゼレ、ウェスト…挙げればキリがないほどの著名な神学者たちがここで教えました。そして黒人神学を生み出したジェイムズ・H・コーンもその一人です。空さんがユニオン神学校に留学して、このコーンのもとで学んでいった出会いと葛藤を綴った本です。コーンは2018年に召天しますが、空さんはまさにその最晩年の生徒の一人でした。

キリスト教神学とは解放の神学である。
コーンは宣言した。1970年に出版された『黒人解放の神学』の冒頭を飾る言葉だ。マーティン・ルーサー・キング牧師の死と公民権運動の斜陽、ブラック・パワー運動の興隆という時代の激流の中で、コーンの言葉は若い黒人キリスト者にとって確かな灯りとなった。神学とは神についての空想的な議論でもなければ、一部の人びとのために取り置かれた難解な秘儀でもない。神学とはむしろ、2000年前のイエスの働きを、今ここにおいて証すること…それがコーンの信念だった。(pp.6-7)
私(コーン)は彼らが払った犠牲を払わなかった。ボールドウィンもキングやマルコムが払ったものを払わなかった。私は他の多くの黒人が払ったものを払わなかった。多くの人びとが命を捧げたのだ。もし神学をするなら、それを真剣にしなさい。何か書くなら、それを真剣にしなさい。なぜなら君たちは、それを死んでいった者たちのためにするのだから。(p.148)

わたしがコーンに直接会ったことは一度もありません。けれども、この本を通して確かにコーンからの呼びかけを聞いたように感じました。(有明海のほとり便り no.305)